横浜の住宅見学+レクチャーを開催しました
先週、9月14日に『理論としての建築家の自邸』第4回、伊藤暁さん「横浜の住宅」を実施しました。門脇耕三さんによると、「横浜の住宅」は伊藤さんが地域性をテーマにした初期の作品で、ハイテクなる新素材とローカルな素材や技術のハイブリッドとしてそのオリジナリティの高さが注目されたということでした。
伊藤さんからは、「ランドスケープの一部となる住宅」というテーマでレクチャーをいただきました。富弘美術館(ヨコミゾマコト、2005)を担当していたとき、図式の強い建築を具現化しようとするときに、できるだけシングルラインの図式そのままに近づけようと、物理的な壁をどこまで薄くできるかとギリギリを探求するが、どれだけ薄く実現しても実物が図式からは劣化してしまうというジレンマを味わった。一方で、建築の現場が持っている生々しさや力強さもまた建築の魅力であるという思いが残ったということでした。
築80年の民家を改装した「えんがわオフィス」では架構=建築の文法であると気づいた。どの建築にもあるであろう文法をもって設計していきたいと思ったとき、「地域性」とは周辺のコンテクストへの反応として実現した建築の自然なありかたではないか。「横浜の住宅」は、横浜の丘陵地に北斜面であるがゆえに最後まで宅地開発されず雑木林として残っていた敷地であるが、既存住宅は北斜面というコンテクストを全く無視し、大きく斜面の眺望が広がる北側面を閉じ、わずかな南側面に開口部を持ってきていた。こうしたランドスケープとのミスマッチ、ギャップを調整するように「横浜の住宅」を設計した。「筑西の住宅」は90年前の蔵の解体移築住宅への転換、既存の横架材や建具、道具なども再活用して新旧の部材が混在する状態をつくった。それぞれの土地が持つできるだけ変わらないコンテクストに反応するように、時間耐性の強い建築をつくっていきたい、ということでした。
ディスカッションでは、塚本由晴さんからコンテクストの捉え方がやや恣意的で、各作品の一貫性やハイブリッドの意味が掴みにくい、物語としてのハイブリッドを構築するレトリックがもう少し欲しいという指摘がありました。篠原一男「第3の様式」では、谷川邸(土の斜面)、高圧線下の住宅(高圧線)、上原通りの住宅(予定外の子供部屋の増設)など、建築の自律的なシステム外のコンテクストを導入するハイブリッド理論となっていた、といったお話をいただきました。長谷川から「第3の様式」時代の篠原が、それまでとは打って変わって実生活でも積極的に外に向かうようになっていったという証言もありました。
自宅公開、そして解説、レクチャーと1日かけてこの企画を実現してくださった伊藤暁さん、千葉の台風災害復興作業と大変な中から駆けつけてきてくださった塚本さん、ありがとうございました。